冷蔵庫搬入の話 そして伝説へ…

Bar Pálinka開業までの物語も最終話だ。

  

今回はタイトルにもあるように冷蔵庫搬入の話
ここまで度重なる困難を乗り越え、ある程度の困難ならもう平気だろくらいの気持ちでいた。まさか最後の最後にあんな困難が待ち構えているなんて…タイルのCMYK調整で苦労してたのが懐かしい…
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さて、飲食店に必要不可欠なアイテム「冷蔵庫」。正確には「冷凍庫」も。お店によっては「製氷器」も。当店は氷屋さんから氷を仕入れているので製氷器はない。氷を冷凍しておくための「アイスストッカー」が必要。こいつらを搬入するミッションが残っている。冷蔵庫だけじゃなかったねタイトル詐欺だね。
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以前にも書いたが当店はミリ単位で設計されており、カウンターの内側も同様。カウンター内に設置する「もの」は決まっているが、定められた幅に収まる範囲で揃える必要がある。
 
①シンク
洗い物をしたり手洗いをしたり。これは保健所の検査項目にもあり、槽の深さを含めサイズに基準がある。小さすぎてはいけない。そして洗い場と別で手洗い用のシンクが必要となる。スペースに限りがあるので洗い場と手洗い場を混合した3槽シンクにした。1槽が手洗い用、2槽が洗い物用。規格が決まっているのでサイズに関しては悩まなかったが保健所の条件に合った槽のサイズのシンクを選ぶのに時間を要した。
 
②ゴミ箱
これは簡単に見つかった。色にこだわりもなく。
 
キャビネット
グラスやお皿を収納する必要がある。これも保健所の検査項目にあるため設置必須だ。例によってスペースが決まっているので横幅に合うものを探す。意外とこれを探すのに苦労した。結果ジャストフィットするものが見つかった。
 
④アイスストッカー
氷を保存しておくための冷凍庫。前の店から愛用していたAQUAを使いたいと決めていた。
どのバーテンダーもAQUAの3段ストッカーが最高だよね、と口を揃えて言うほどだ。実際言ってるところ見たことないけど。
本当に便利なのでこれ一択だった。いざ購入しようとしたら衝撃の事実が発覚。
なんと製造終了していたのだ。
 
いやいや
 
え?
 
頭を抱えた。
 
それでも探した。探すのをやめた時見つかることもよくある話で。なんて言ってる場合ではなく必死に探した。
1店舗だけギリギリ在庫が残っていた。すぐさま電話。在庫確保。即支払い。
納品日だけ工期に合わせて少し待っていただいた。少しというか結構待っていただいたので倉庫を圧迫していた気がする。本当にありがとうございます。
 
⑤コールドテーブル
冷蔵庫ではなく正確にはコールドテーブル。天板部分が作業台になっているので冷やす役目とテーブルの役目を兼ねている。なのでコールドテーブルという。たぶん。ちがうかも。
その中でも冷蔵庫冷凍庫一体化タイプのものを選んだ。これも規格が決まっているので選択肢は多くない。選ぶのは苦労しなかった。選ぶのは。そう、選ぶのは苦労しなかったのだ。タイトルにもあるように搬入が地獄だった。
 
ゴミ箱とキャビネットに関しては小さいのでなんの問題もなく、普通に運び入れた。次にシンク。これは分解ができるため同様に苦労なく搬入、組み立てが完了し設置も排水管繋いだりお湯が出るの確認したり色々あったがスムーズに終わった。
 
さて、本題だ
④のアイスストッカー搬入
まずこちらをご覧いただこう。
 
(^ω^)
 
(^ω^)…?
 
(^ω^)ンッッッww
 
カウンター天板を螺旋階段の手すりの上まで吊り上げて搬入した話は記憶に新しい。
そう…
そう言うことなのだ…
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アイスストッカーも同様に吊り上げて搬入した。
事前に螺旋階段の中を通すことができることを確認していた。同じサイズの段ボールで検証もした。検証したのだ。しかし中を通すことができずこうなってしまった。どうしてこうなった。
まずは重量を確認する。
 
【製品質量 44kg】
 
大丈夫だ、問題ない。
吊り上げる前に手すりを毛布などで保護。耐荷重の問題ない頑丈なロープも用意した。マッチョも用意した。
この搬入に必要なのは技術ではなく筋肉だった。マッチョが必要だったのだ。
写真左にいるガタイのいい白シャツ、彼がスーパー助っ人「菅原の弟」だ。現役のボート部。筋肉は世界を救う。
 
下から押し上げ、上から引き上げる。単純な作業ではあったが足場が悪い。そして引き上げる際にも最後は下から押し上げられないため上からの力だけで引っ張り上げなければならなかった。
 
結果から言うとなんとかなった。苦労はしたもののなんとか搬入が完了した。
筋肉のおかげだ。
手すりを超えあと一歩という時に斜めになっている手すりを滑り落ちそうになった時は肝を冷やした。冷やすのは氷だけでいいんだよ…
搬入が終わりこの後本当の地獄が訪れるとも知らずにポーズをキメるグラフィックデザイナー川畑。
 
 
最後に残るはコールドテーブル。これを搬入すれば完了となる。これも事前にサイズを検証し、螺旋階段の中を通せることは確認済みだった。
 
まずは写真をご覧いただこう。
 
オ゛ッッッ(^ω^)?!
この顔である。
 
こ の 顔 で あ る
(°-°)
手すりの分幅が絶妙に足りなかったのだ。検証とはなんだったのか。
少しでも幅を確保するために扉は外した。しかし通らなかったのである。あと2cm足りなかった。本当に後少しだった。検証とはなんだったのか。いやマジでなんだったんだ???
 
まだ開業すらしていないのに最終回を迎えた気分だった。カウンター天板の搬入で苦労していたのが懐かしい。
 
いや…
まだだ…
 
先ほど同様に吊り上げればいけるはず。舐めるな、こっちには筋肉がいるんだ。
 
重さは…
 
【製品質量 89kg】
 
無理だ。
終わった。
本当に終わった。
これは無理だ。松沢先生の次回作にご期待ください。
 
 
成人男性4名に加えてマッチョ1名。それだけなら89kgという重さはなんの問題もない。
先ほどのアイスストッカー搬入同様に下から押し上げるまではいいのだが、その先の上から引き上げる作業。これが無理だ。
44kgですらあれだけ苦労したのだ。なんとかなったとは書いたがとてつもなく苦労はしていた。89kgと言う重量が物語る絶望はとんでもなかった。
 
しかし螺旋階段の中を通らない以上、吊り上げて搬入する以外の選択肢はなかった。
「ええいままよ。」実際に言っている場面を見たことがない漫画のセリフランキング1位(俺調べ)
そんな気分で実行した。
 
 
おーーー??(^ω^)
ここまではよかった。下から押し上げ、上から引き上げる。
絶対に落ちないようにしっかりと縛り…
固定した。
いや、ここで固定してどうするんだ…
上から引き上げようにも本当に限界だった。
これは無理だ。下から押し上げるために足場が必要だ。
足場はない。
 
ない…
 
菅原「ないなら…作ればいいのでは…?」
なるほど「俺」
 
足場を設置し、下から押し上げ、そして引き上げればいける。アップスターを借りて翌日作業を続行することを決めた。
レンタル業者がいてくれて本当によかった。アップスターを朝イチで借りに行くためにレンタカーを手配し、往復1時間半の運転。そして螺旋階段の横へ設置しコールドテーブルを押し上げ、搬入。そしてアップスター返却、レンタカー返却。
完璧な作戦だ。不可能だという点に目をつぶればよぉ〜。
 
吊り上げたままでは流石に危なすぎるので一旦コールドテーブルを地面へ降ろす。
( ◞‸◟ )もうダメだよ…パトラッシュ…。心が折れていた。
 
もうここで開業しようぜ…なんて言いながら自販機で買ったデカビタを提供する素振りを見せる松沢
 
時刻は深夜2:00を回っていた。寒さと疲労と睡眠不足で本当に限界だった。
これに加えて開業の挨拶のために翌日から都内100軒以上のバーを回る必要があった。この体力で運転…本当に危ない。睡眠は大事。
 
開店挨拶。分刻みのスケジュールで回ったのはいい思い出だ
 
とりあえずその日はオフィスで寝た。
しっかりと休息をとりレッドブルをキめて翼を授かり、アップスターを拝借しに向かう。不可能に近い作戦を実行に移すためだ。
連日アップスターを借りにくるバーテンダー、業者からしたら何してんだこいつって感じだったと思う。ただただ必死だった。
 
そんな中でも忘れずに記念撮影。なんの記念だ。
 
睡魔と戦いながらアップスター設置。筋肉召喚。全員で息を合わせて押し上げる。引き上げる。うんとこしょ、どっこいしょ。それでもコールドテーブルは上がりません。筋肉が悲鳴をあげる。ここでいう筋肉は「菅原弟」のことではなく全員の肉体的な筋肉をいう。
 
あともうちょっと。
本当にあともうちょっとなんだ。
全力を出した。
コールドテーブルの足が手すりの上まできた。足を手すりに引っ掛ける。
峠は越えた。峠って漢字、山に上下って書くのマジですごいよな。
あともう一歩だ。
(^ω^)どっこいしょ〜どっこいしょ!
 
ハイッッッハイッッッッwww
 
引き上げが完了した。
 
不可能を可能にした。
 
やり切った感があった。
 
入り口を通過しカウンターの前へ運ぶ。拍手喝采だ。施工業者も見守る中搬入を終えた。見守ってはくれていたが手伝ってはくれなかった。業務内容外だもんねそうだよね。
 
カウンターの外側から内側へ持ち上げる。地に足がつく環境では89kgはなんと軽いものか…。
 
カウンターを超えるのは容易だった。
設置完了。最後の最後にこんなに苦労することになるとは。
 
これで山場は全て終わった。細かい業務は山ほど残っているが大きな山場は全て終わったのだ。
 
保健所の検査が来た時に入口のドアが1cmデカくて付けられずに必死にサンダーで端っこを切り落として設置したの、めちゃくちゃウケるけどそのくだりは一行で終わらせるね。保健所のお姉さんも「今はまだ設置できていない様ですがさすがに入り口の扉は付けられると思うので…」と苦笑いしていた。
 
とてつもない苦労の果てに完成したBar Pálinka
みんなのこだわりと愛情の詰まったBar Pálinka
ここを拠点に日本でパーリンカを普及していこうと改めて決意した。
開業時の松沢の写真。疲労困憊じゃねーか。
次回ご来店時にはとてつもない苦労があったことを思い出しながらグラスを傾けていただきたい、と言いたいところだけどそんな面倒なことは考えずに「おいしい」「やばい」「すごい」くらいの適当な感じで美味しいものを楽しんでいただければ幸いだ。