カウンター天板の話
今回はカウンターの天板の話。バーの命と言っても過言ではない天板。バーテンダーとしてやはり一番拘りたいところでもある。今後このカウンターの上で様々なドラマが繰り広げられるのだから。
実はカウンターって言葉は日本でしか使わない。海外だと基本的にカウンター席のことを「Bar」という。カウンターはバーそのものなのだ。テーブルは普通に「Table」。
この天板の話をする前にちょっと裏話を書いておこうと思う。
社内でデザイナーチームと予算との兼ね合いで色々と悩んでいた頃。
デ「いやー…どう頑張っても予算ちょっとオーバーするね…」
松「削れるところ削って、妥協できるところは妥協して…」
デ「後々アップグレードできるところは一旦妥協して製作していくとして…削れるところ…削れるとk…あれ?天板の予算ナニコレ?○○万円…?合板にすればこれ半分以下になるのでは?」
松「ちょっと待った」
もう一度言おう。カウンターはバーそのものなのだ。
デ「合板でも木目は綺麗だし、そんなに問題ないと思うけど…やっぱりカウンターってそんなに大事か」
もう一度言おう。バーの命と言っても過言ではないのだ。
松「ゆずれない願いを…抱きしめて…」
両者の主張はどちらも重要で、現実的な話をしているので不仲というわけでもなく、むしろ建設的な会話だ。揉めているわけではない。
結果的に他の部分で削れるところを削って予算内に収めた。(収めてるように見せていてちょっと足は出ていた気がするが見なかったことにする
個人的な気持ちでカウンター天板の一枚板は譲れなかった。一枚板じゃなくても、合板でも問題はないのだが、個人的なこだわりだ。わがままでしかないけど。止まらない未来を目指して…。
そんなこんながあって当店のカウンターは一枚板だ。どうやって運び入れたのか、どこから調達してきたのか、どんな木材なのか、そんな話をしていく。
最初に決定したのは言うまでもない。サイズだ。
物件の大きさが決まっているので当然長さや幅は制限される。その範囲内でベストなサイズを算出し、それに見合う木材を検索した。もちろん厚さにも指定があるがそれは薄くてもなんとかなる。
長さ3600mm 幅650mm
知り合いの木材屋、紹介して頂いた木材屋などで該当する木材があるかどうか問い合わせ、いくつか候補を見せてもらった。
訪れたのは町田にある何月屋銘木店。本当に素敵な材木屋さんだ。数多くのバーのカウンターもここで加工していて、バーだけでなく鮨屋や懐石料理屋さんのカウンターも手がけている。
祖父が大工だったこともあり、材木屋は子供の頃によく遊びに行っており(邪魔だったやろなぁ…)、とても懐かしい感覚になる。
どの木材も最高に格好いい
加工前でも格好いい木目が加工後はもっと格好良くなる
数百本に及ぶ在庫の中から事前に挙げた候補数本をピックアップし、倉庫から店舗へ持ってきて用意をして頂く。重なっている木材から指定した木材を運び出すだけでものすごい労力が掛かっているので実物を見る前にある程度アタリをつけて購入前提で話を進める。ただ見るだけではこの確認作業もさせてもらえない。当たり前だが。
バーのカウンターでよく使われる代表的な木材は色々ある。
『ブビンガ』『ウォルナット』『ミズナラ』『チーク』『カリン』など。
そんな中から選んだのは、聞きなれない名前だけどみんな知ってる有名な木『モンキーポッド』だ。
「モンキーポッド…??ルパンの作者か?」
モンキーパンツではない。(AA略
『モンキーポッド 』
そう、ハワイにあるあの有名な木。気になる木。
こいつがモンキーポッド。名前も知らない木。 皆さんは名前を知ってしまったので今後は名前を知ってる木と言ってほしい。
色々見てこいつに決めた。ポケモンのサトシも選ぶときにこのくらい悩むんだろうな…。ポケモンやったことないけど。
本当に、君に決めた!って感じの気分だった。
もうすでにめちゃくちゃかっこいいな。
天板の両端は自然のままで、これを残すかどうかもデザイナーと色々話し合った。
話し合った結果両橋も切り揃えて直線にすることになった。自然の曲線を残してもいいが内装とのバランスを鑑みるに直線で揃えようとなった。
加工は全て材木屋さんに任せ、納品を待つ。
もちろんサイズや加工方法、角Rについても指定をし、図面をお送りした。
次のステップだが工期を見て、天板の搬入日を確定させる。
工期が思うように進まない中この日程のすり合わせは苦労した。苦労したのは業者様方だが…。(本当にありがとうございます。)
そして町田から運ばれてくる天板
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!
…さて搬入だが…当店は螺旋階段のある2階部分。
3.6mの天板は当然普通には入らない。一枚板の搬入を断念し、一枚板を購入したにも関わらず、断腸の思いで真ん中で半分に切り分けて搬入している店舗もある。同情するぞどこかのマスターさん。
手すりの上まで吊り上げ、それを真っ直ぐ店内に搬入する…搬入する…のだが入り口から直線3.6mは本当にギリギリで…あと5cmでも長かったら突っ込んでも斜めにしても回転できずに詰んでいたと思う。
搬入のためにアップスター(この足場のやつ)も借りた。これを借りるために片道1時間ほどレンタカーを走らせたのもいい思い出だ。首都高怖すぎィ。
手すりに緩衝材を巻きつけ傷付けないように細心の注意を払う。
ボトル棚の少し出っぱっている部分まで、限界まで奥に突っ込み、両端をぶつけないように少しずつ回転させ搬入が完了した。事前に長さを測っていたとはいえ肝を冷やした。
このアップスター、実はまた後日登場するので覚えておいてほしい。本当は登場しないはずだったんだけど。ちくしょー。
(そういえば営業開始して数ヶ月してからご常連様でアップスターなどのレンタル会社やってる方がいると知って最初に頼ればよかったと後悔したが後の祭りだ。)
前回の施工の話で工事の様子を見ていただいた。施工工事が進むにつれてバーの面影が見えてくるが、天板が設置されたときは本当に感動した。この瞬間は忘れられない。一生の思い出。
「バーっぽいなー?」から「あー、これはもうバーだわ…」に変わった。たぶんしばらく立ち尽くして天板を撫でていたと思う。あれ?あんまり記憶にないわ。忘れてるわ。
いや、これはバーだわ…
しかしまだ施工途中、カウンターに汚れや傷が付かないようにカバーをし施工は進む。いよいよ完成が近いのを実感する。
次回、ボトル棚の話