椅子と内装コンセプトの話
前回からだいぶ時間が開いてしまったが続きを書いていく。
今日は椅子と内装コンセプトの話
店舗全体のデザインを担当した宮田の本分はプロダクトデザインだ。
プロダクトデザインと言ってもピンとこない人も多いだろう。
食器、文房具などの生活用品や家電製品、家具、インテリア、事務用具など身の回りにある様々なものをデザインするプロだ。
彼の得意分野はスツール。内装デザインの話でCGに写っていた渦巻状のスツールは覚えているだろうか。最初に提案されたバースツールはあれだ。あのスツール、実は1脚だけではあるが実際に製作を依頼した。木製で。しかも全て手作業。構造上耐久度なども心配だったが信州・松本にいる仙人のような木工家の藤原氏が「できる」と一言。どうやら木の声が聞こえるらしい…。ワイルドライフにそんなキャラいたな…。
芸術作品すぎて一時期Bar Pálinkaに展示していたこともあるので見覚えがある方もいるはずだ。現実問題、生産が追いつかないこととコストがとてつもないことになってしまうこともあり、このスツールで揃えることは断念した。
なんですかアレ…と毎日のように聞かれた。まさか木製とは誰も思うまい。
木工家、藤原氏のアトリエ。機械は一切使用しないという。
そこから一転、宮田が次は全く違うスツールを提案してきた。それが現在のパーリンカのスツールの原型だ。
透明…だと…
アクリル製のウネウネしたスツールだ。これを提案された松沢の気持ちをマジで考えてほしい…。(前回ぶり2回目)
原型と言っても今とほぼ同じなのだが、今の完成形のスツールとは薄さが違う。この時はもっと薄かったのだ。薄いとどうなるか…。そう、めちゃくちゃしなるのだ。もう、本当に、公園の遊具のような感じ。
現在のアクリルのスツールも若干しなるものの、その比ではない。
すっ…(グイーーーーーングイーーーン
松沢「うおっ!!うおおおお…こ、これは…NGですね」
宮田「NGですか…」
デザインに関しては絶大なる信頼を置いているがダメなものはダメとはっきり言わねばならない。
意匠と現実は常にぶつかり合う。
安全性が不安すぎる。この揺れに慣れてきたとしても酔ってきた時に確実にバランスを崩すことが容易に想像できた。慣れれば問題ないが…いやしかし…とにかくこの揺れ方は容認できなかった。
宮田「厚くします」
数々の検証、試行錯誤の上で厚みを出すことや底面を絶妙にカーブさせることで耐久度や揺れをクリアした。さすがすぎる…。
専用のソフトで耐久度やしなり具合を検証
そうして完成したのが現在の当店のスツールだ。
このスツール、ただただ透明でスタイリッシュなだけではない。
なぜこの形状になったかの説明をする前に一度、Bar Pálinkaの内装のコンセプトの話をしようと思う。
お店のコンセプトはもちろん【パーリンカ】だが、内装のコンセプトはそこからさらに発展した部分。内装のコンセプト、それは【剥離】だ。
これは未だどこにも発信していないのでここで初公開となる。
剥離ってあれでしょ、なんか…その…剥がれてるっていうか…。
その通りだ。
パーリンカは果実を発酵、蒸留することで香りを高めている。これを少し視点を変えて捉えると、「果実から香りを【剥離】させている」と考えることもできる。
前回の壁紙の話では触れなかったが、店内の様々な場所にはアクリル板が浮遊しており、それに壁紙と同様の模様が施されている。これも【剥離】のひとつで、壁紙で表現された「香り」が壁から剥離して浮かび上がっている。
ゆらゆらと揺れる剥離壁もあれば、ほぼ固定されているものもある。香りや味わいの揺らぎも表現している。
そして今回のスツール。
これも【剥離】している。では、どこから剥離されたものなのか。
カウンターの土台となる腰壁だ。
徐々に変化していく過程
あまりカウンターの腰壁を横から見る機会がないので気付いた方は少ない。テーブル席をご利用したことがある方は比較的気付きやすいかもしれない。
この腰壁の形状をそのまま【剥離】させたものがこのスツールの形状になっている。
そしてパーリンカは蒸留したのちにステンレスのタンクで熟成されるため、仕上がりが無色透明だ。そのパーリンカとの整合性を保つためもあり、アクリル製の透明なスツールに仕上がっている。全てが全てパーリンカのためだ。
つまり実質”パーリンカ”に座っている状態。パーリンカを飲みながら、パーリンカに。…パーリンカはいいぞ。
狭い物件なので椅子を透明にすることで客席側のスペースを広く見せ、圧迫感を軽減させる効果もある。
壁のタイルと同じ模様を施した剥離壁を【Float】と名付けた。原料となる果実と完成した透明なパーリンカの中間ということで半透明。
また休業期間に突入するのでだらだら書いていく。だいたいこういう話は脱線した時の方が面白いって相場が決まってるので率先して脱線していく所存。
次回、解体・施工の話